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研究調査

Ⅱ. 研究ハイライト

Research Highlights

3.祝祭トランス現象と「神々と祭り」による社会制御の解明

 西欧の近現代社会では文字で書かれた法律によって社会を制御するのが一般的です。これに対して、西欧以外の伝統的な共同体では、文字で書かれた法律に相当するものが見られなかったり、あったとしてもごく簡潔なものであるにもかかわらず、結果的に見事に社会を制御している事例がしばしば見受けられます。そのメカニズムを探るため、私たちは、社会人類学にシステム制御の概念を導入することにより独自のアプローチを築き、インドネシア共和国バリ島のように、傾斜地で水田農耕をおこなっているため「水争い」が社会的な葛藤の火種となる危険性が高いにもかかわらず、円滑な社会の運営を実現している伝統的共同体のフィールド調査をおこないました。
 その結果、祭りを運営する組織と水の分配組織とがちょうど縦糸と横糸のようにクロスして構成されることにより、祭り仲間の結束が水争いを防ぐ、というメカニズムが存在することを発見しました。その中心にあるのが「神々と祭り」です。祭りの生み出す陶酔的な快感と、神々に対する畏敬の念が、ちょうどアメとムチとなって、人間を自然にシステム化し円滑な社会運営を実現していることが明らかになりました。

 さらにこうした祭りの中では、視聴覚情報がひきおこす爆発的な快感によって、参加者が精神変容状態(トランス)を呈することもしばしば観察されます。私たちは、バリ島の祭りのなかでトランス状態になった人から、特異的に活性化された脳波と血液中の生理活性物質を計測することに世界ではじめて成功しました。トランス状態では快適性の指標である脳波α波が劇的に増加すると同時に、ドーパミンやベータ・エンドルフィンといった安全無害ないわゆる「脳内麻薬」が血液中に桁違いに潤沢に放出されることを発見したのです。 

 これらの研究は、30年以上にわたって培ってきた現地共同体との強固な信頼関係の上にはじめて実現可能になったものです。また、こうした人間の自然な特性を巧みに利用して社会制御をおこなうやり方は、西欧近代以外のやり方の有効性をわかりやすく示しているものと考えられます。 

主な発表論文

  • Catecholamines and opioid peptides increase in plasma in humans during possession trances. Kawai N, Honda M, Nakamura S, Samatra P, Sukardika K, Nakatani Y, Shimojo N, Oohashi T, NeuroReport, 12: 3419-3423 (2001)
  • Electroencephalographic measurement of possession trance in the field, Oohashi T, Kawai N, Honda M, Nakamura S, Morimoto M, Nishina E, Maekawa T, Clinical Neurophysiology, 113: 435-445 (2002)
  • Electroencephalogram characteristics during possession trances in healthy individuals, Kawai N., Honda M., Nishina E., Yagi R., Oohashi T.: Neuroreport 28, 949-955, 2017, doi: 10.1097/WNR.0000000000000857.